以上の結果からSCP-1690-JPは確保することも収容することも出来ず、その脅威を秘匿したまま人類を保護することができないオブジェクトであり、その脅威から逃れるためには少なくとも地球圏を放棄する必要があると結論付けられました。これを受け、SCP-1690-JPは確定的K-クラスシナリオ誘引脅威としてAinクラスオブジェクトに定義され、現在の特別隠蔽プロトコルが策定されました。南方博士の提言及びホフマン博士の提言はそれぞれE-1及びE-2計画として採用し、SCP-1690-JPの存在を秘匿した状態での必要な調査及び研究開発の実施が決定されました。
補遺2: ████/██/██以降、地球圏外の各観測施設においてらしんばん座方向からの特定パルスを繰り返す微弱な軟X線信号が観測されています。解析の結果、その内容はDNAの塩基配列と考えられる約70億ビットのデータ列、幾つかの文章記録と翻訳の手がかりとなる絵と単語の対応図表でした。発信した知的生命体が人類に似た二足歩行生物であったため、文章記録の翻訳は容易に完了しました。大半はその生物種が歩んだ歴史についての記述でしたが、最後の部分にSCP-1690-JPへの言及と考えられる文章が複数存在しました。以下はその抜粋です。
この文章とデータ内に存在したコロニーの詳細な情報の分析の結果、この知的生命体はSCP-1690-JPによる消滅から逃れるためにE-1計画に類似した方法を取り、最終的に滅亡に至ったと考えられます。この前例の存在を受け、E-1計画におけるコロニー運営プランの抜本的な見直しが余儀なくされています。
補遺3: 対策委員会の提言を元に、E-2計画の一環として既知の平行宇宙についての安全性の調査が行われています。████/██/██現在、既知である372,651の並行宇宙の内172,662について調査が完了しましたが、この内SCP-1690-JPの存在が確認できた宇宙は127と極僅かでした。しかしこれ以外の宇宙についても、空間曲率の測定から3次元平坦トーラス体である可能性は否定できませんでした。基底宇宙においては、SCP-1690-JPが偶然地球から観測可能な領域に存在していたため発見が可能でしたが、広大な宇宙の殆どは宇宙誕生からの時間と光速度の関係でSCP-1690-JPが観測不可能な領域です。SCP-1690-JPが発見されなかった宇宙が基底宇宙と同様の空間曲率を持つとういことは、時空間ポータルの出口に当たる観測点がこの領域にあるだけでSCP-1690-JPは存在するという可能性も否定出来ないことを意味しています。このため現在調査の焦点は、空間の曲率が異なる3次元球面宇宙などのSCP-1690-JPは幾何学的に存在し得ない宇宙の発見に向けられています。しかし宇宙モデルについての研究を進めている財団基礎物理学部門と天文学部門の合同チームは、現在までの調査結果を踏まえると、3次元平坦トーラス体である基底宇宙と時空間ポータルで繋がることが出来るほど隣接した宇宙は、幾何学的に同様の曲率を持つものに限られるのではないかという見解を示しています。
また、過去███年に発見された時空間ポータルについての財団内のレポートを調査した結果、154件の報告において予兆なしに消失したケースが確認されました。この全てがSCP-1690-JPによるものであるという証拠は存在しませんが、時空間ポータルの安定性についての理論より、その可能性は極めて高いと見られています。この事実は、SCP-1690-JPが基底宇宙に隣接する並行宇宙において普遍的な存在である可能性を強く示しています。
E-2計画における並行宇宙探査は、新規の時空間ポータルの捜索を含めて引き続き継続されています。
SCP-1690-JPというのは、まさに宇宙の終端そのものである。それはある日突然我々の存在を根こそぎ消し去り、誰も消滅したことにすら気づくことは出来ないだろう。そしてその後に待っているのは、絶対的な"無"である。SCP-1690-JPの現在の位置がわかっていない以上それは明日にも訪れる出来事かも知れないし、太陽系が滅びた後に訪れる出来事かもしれない。しかし座してその時を待つという選択では、その存在に気付いてしまった我々は恐怖に怯えながら日々を過ごさねばならない。故に我々はこの2つの逃げ道について、可能性がある限り追究し続けなければならない。たとえそれが、ほんの一縷の望みであっても。 —"管理者"